青森県黒石市は360年前から続く伝統的な小さな町(人口3万4千人)で、江戸時代から残る街並みには多雪地帯ならではの工夫がなされた「こみせ」と呼ばれる公共歩廊が連なり、一帯が重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
現在黒石市では、人口減少とモータリゼーションによって客足が遠のいてしまった中心市街地においてウォーカブルで回遊性の高いまちづくりを目指した積極的な取り組みがなされている。その計画対象エリアにあるこの図書館で目指したのはウォーカブルな街並みとつながる「みちのような図書館」である。図書館の中を通り抜けるみちが、自然と外の道へとつながって一連で歩いていくような空間。みちを歩くように本と出会い手にとって読む、本で得た知識をもとに街並みの探索に歩いて行ってしまうような、町並みとの親和性が高く人が積極的に行き来する図書館である。
平面計画では、特徴的なL型の細長い敷地に合わせて南北に抜けるみちを設定し 、みちを歩く中で書架や学習スペース・企画展示スペースなどの間を通りぬけ、様々な本や人、情報と出会う機会を創出している 。1階に主な開架・閲覧スペースや市民のための活動室を設け、2階に学習スペースや屋外読書テラス、閉架書庫などを設けている。外部では施設に囲まれるようにレイアウトされた屋外読書広場を設け、室内外で連携したイベントが開催可能となっている。外観は周辺の街並みに配慮して軒高を低く設定し、街に面するファサードに「こみせ」を配し積雪期の安全な人の往来や黒石ならではの景観づくりを行なっている。「こみせ」は夏の黒石ねぷた祭りの際には、多くの市民のねぷた観覧席としても機能している。
本施設は中心市街地の南西側にあり新旧問わず多くの都市施設が徒歩圏内に立地している。この新しい図書館が街に必要な全てを備えるのではなく、まち全体で機能を分担する1ピースになることが必要だと考えている。「こみせ」のように私有地を公共の歩廊として活かしてきたように、「他人の空間にふらっと入って自分の居場所として使ってしまう」黒石の人々の自然な行為がこの地域全体に広がり、歩いて回れるくつろげる街として、世代を超えたコミュニティが街と共に育っていくことを願っている。(ゲンジアーキ)
データ DATA
所在地 Location: 青森県黒石市 Kuroishi, AOMORI
構造 Structure: RC造 RC
延床面積 Total Area: 1,270.92㎡
竣工 Completion date: 2022.5
撮影 Photographer : 西川 公朗 Masao Nishikawa
collaborator:Manabu Aritsuka Architect Atelier ゲンジアーキ EOSplus MOCHIDA建築設備設計事務所 arg
近代建築 2023.9 特集 文化・交流施設の計画と設計